結論から書く。個人開発の技術選定は「自分が最速で検証できるか」だけで決めていいが、クライアントワークの技術選定は「自分がいなくなった後も回るか」を主軸に置かないと事故る。同じ私が同じ技術力で選んでいるのに、判断基準がここまで違うのは、技術選定という行為が実は「誰のリスクを引き受けるか」を決める行為だからだと今は理解している。複業とFDEのクライアントワークを並行して回す中で体で覚えた違いを書く。
個人開発は「自分だけが痛みを引き受ける」
storeforgeやafflowの検証スクリプトを書くとき、私は技術選定にほとんど時間をかけない。Node.js 22のネイティブTypeScript実行を使ったり、DBを使わずJSONファイルで済ませたり、型を厳密に付けずに手続き的に書き切ることも多い。
理由は単純で、失敗したときの痛みを自分1人で引き受けられるからだ。選定を誤って書き直しになっても、困るのは私の時間だけで、締め切りが飛ぶ相手も、動かなくなって迷惑がかかる顧客もいない。だから個人開発での技術選定の評価軸は実質1つしかない。「今この検証を最短で終わらせられるか」だ。
保守性やスケーラビリティを考慮に入れることもあるが、それは「継続する見込みがあるプロジェクトに限り、かつ後回しにできる」レベルの優先度でしかない。検証段階のスクリプトに型定義やテストを丁寧に書くことは、むしろ悪手になることの方が多い。
クライアントワークは「自分がいなくなった後」が起点になる
一方、FDEとしてクライアント企業のAI導入支援に入るときは、技術選定の起点が完全に変わる。私が最速で書けるかどうかはほとんど関係なく、次の3つを先に考える。
- クライアント社内のエンジニアが引き継げるか: 私がプロジェクトを離れた後、保守するのは大抵クライアント側の担当者だ。私が個人開発で好んで使う新しめのランタイムやマイナーなライブラリは、採用側の学習コストと採用実績を天秤にかけて見送ることが多い
- 稟議・情シスの承認が通るか: 新しいSaaSやOSSライブラリを1つ追加するだけでも、企業によっては情シスの承認と予算確保が必要になる。個人開発なら思いついた瞬間に導入できるツールが、クライアントワークでは選定理由を書類にして通す手間そのものがコストになる
- 障害時に誰が対応できるか: 私しか触れない構成にしてしまうと、私が保守契約を離れた瞬間にブラックボックスが生まれる。これはクライアントにとって明確なリスクであり、技術的に優れているかどうかとは別の問題として避ける必要がある
つまりクライアントワークでの技術選定は、「今の私にとっての最適解」ではなく「私が抜けた後のチームにとっての最適解」を探す作業になる。これは技術力の問題ではなく、責任の引き受け方の問題だ。
同じ技術でも「選ぶ理由」が真逆になることがある
面白いのは、同じ技術を選んでいても、選定理由が個人開発とクライアントワークでは逆向きになることがある点だ。
例えばクリーンアーキテクチャ的な層分けは、個人開発では「継続性がありロジックにバグがあると実害が出る場合だけ」採用する、いわば加点方式で選んでいる。一方クライアントワークでは、私が抜けた後の引き継ぎやすさという理由がほぼ常に成立するため、むしろ「層分けをしない理由がない限りやる」という減点方式に近い判断になる。
逆に、個人開発なら気にせず使う最新のランタイムやツールチェーンは、クライアントワークでは「枯れていること」自体が採用理由になる。情シスの審査を通しやすく、クライアント社内のエンジニアが既に知っている技術である方が、機能面で多少劣っていても選ばれる。技術的な優劣の判断軸自体は同じでも、「枯れている」という同じ性質が個人開発では減点、クライアントワークでは加点に働く、というねじれが起きる。
判断を分けるチェックリスト
新しい案件やプロジェクトの技術選定に入る前に、自分の中で必ず確認している問いを整理しておく。
上から3つ以上「はい」なら、私は個人開発の感覚を一旦捨てて、クライアントワーク側の基準に頭を切り替えるようにしている。逆に個人開発の検証フェーズでクライアントワーク的な慎重さを持ち込むと、単純にスピードが落ちて検証の数がこなせなくなる。
まとめ
- 個人開発の技術選定は「自分が最速で検証できるか」の1軸で決めていい。痛みを引き受けるのが自分だけだから
- クライアントワークの技術選定は「自分がいなくなった後も回るか」が起点になる。引き継ぎやすさ・社内承認・障害対応の主体を先に考える
- 同じ「枯れた技術かどうか」という判断軸でも、個人開発では減点、クライアントワークでは加点に働くというねじれが起きる
- 選定前に「痛みを誰が引き受けるか」「自分が抜けた後も回るか」を機械的に確認すると、頭の切り替えがぶれにくくなる
次回は、クライアントワークで学んだ技術選定の基準を、逆に複業側にどう持ち込むか(あるいは持ち込まないか)について書く予定だ。