FDEとして独立してから、単価をどう決めるかは毎回悩む論点だ。以前の記事で、FDEとSESは契約の建て付けが「工数提供」か「成果責任」かで違うと書いた。この違いは、単価の相場観だけでなく、実際に自分が請求額をどう組み立て、クライアントとどう交渉するかにも直結する。今回はその実務レベルの考え方を書く。

工数ベースでは請求額を組み立てない

SESの見積もりは基本的に「稼働時間×単価」で決まる。だがFDEの仕事は成果責任を負う契約なので、私は請求額を工数の積み上げから逆算しない。代わりに、次の3つを起点に金額を組み立てる。

  1. 導入が実現する価値の規模: 対象業務がどれだけの工数・コストを削減するか、あるいはどれだけの機会損失を防ぐか。効果が大きいプロジェクトほど、対価も大きくして問題ない
  2. 稟議・情シス・PoC予算という3つの壁を越える難易度: 以前書いた通り、日本企業のAI導入は技術以外の障害物が多い。この障害物を越える動き方自体に価値があるので、単純な実装工数より高く見積もる根拠になる
  3. 本番定着までの責任範囲: PoCで終わらせず、業務に定着するところまで面倒を見る前提かどうかで、負う責任の重さが変わる。責任範囲が広いほど単価も上がる

工数から逆算すると、どうしても「作業量に見合った金額」という発想に寄ってしまう。成果に対する対価という前提を最初に置くことが、単価交渉の土台になる。

見積もりのタイミングで曖昧にしないこと

契約前の見積もり段階で、次の点はできるだけ具体的にしておく。

  • 「本番定着まで」のゴールラインがどこか: PoCの成功をもってゴールとするのか、実際に現場で使われ続ける状態までを見るのかで、対価も稼働期間も変わる。ここが曖昧なまま契約すると、後から「まだ終わっていない」という認識のズレが起きやすい
  • 要件が固まっていない前提での契約形態: 要件が固まっていない案件を進めることが多い以上、最初から確定金額で請け負うのではなく、フェーズを区切って都度見積もりを更新する契約形態を提案することが多い
  • 意思決定者との距離: 稟議を通す相手が誰で、どこまで自分が資料作成に巻き取るのかを事前にすり合わせる。ここが握れていないと、契約範囲外の作業が際限なく増えていく

交渉で意識していること

交渉の場では、単価の妥当性を「時間」ではなく「リスクの引き受け方」で説明するようにしている。たとえば、要件が固まっていない段階から関わる場合、通常のSES契約なら発注側が負うはずの「要件が変わるリスク」「PoCが失敗するリスク」の一部を、FDEとして引き受けている。このリスクの引き受け方を言語化して伝えると、単純な工数比較では出てこない金額の根拠になる。

もう一つ意識しているのは、値下げ交渉に対して工数を削る方向で応じないことだ。金額を下げる代わりに責任範囲を狭める(例えば本番定着までではなくPoCまでとする)方向で調整することはあるが、責任範囲はそのままで金額だけ下げると、成果責任という契約の前提そのものが崩れてしまう。

まとめ

  • FDEの請求額は工数の積み上げではなく、実現する価値の規模・障害物を越える難易度・責任範囲の広さから組み立てる
  • 契約前に「本番定着までのゴールライン」「要件変動への対応」「意思決定者との距離」を具体的にしておく
  • 交渉では単価の妥当性を「時間」ではなく「引き受けているリスク」で説明する。値下げには責任範囲の調整で応じ、責任範囲を維持したまま金額だけ下げない

単価は市場の相場観だけで決まるものではなく、自分がどこまでの責任を引き受けるかという契約設計の結果として決まる。この考え方は、独立してから何度も金額交渉をする中で固まってきたものだ。

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