マイクロ法人(Nogawa L.prince合同会社)を設立した際、最初にぶつかった実務判断の一つが役員報酬の金額決めだった。今回は、自分がどういう順序で考え、最終的に月23,000円という数字に落ち着いたか、その判断プロセスを書く。結論を先に書くと、私は「いくら欲しいか」からではなく「いくらなら年内変更しなくて済むか」から逆算して決めた。
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役員報酬は「後から自由に変えられない」という前提から始まった
法人化を検討していた時点で漠然と持っていたイメージは、「利益が出た月は多めに、出なかった月は少なめに」調整できるものだろう、というものだった。だが実際に調べて分かったのは、役員報酬は定期同額給与が原則で、事業年度の途中で金額を変えると、変更後の増額分が損金として認められなくなるということだった。つまり「様子を見ながら微調整する」という発想自体が、そもそも制度と噛み合っていない。
この前提を知った時点で、判断の性質が変わった。個人の家計で「今月は多めに使う」を決めるのとは違い、期首に決めた金額を最低でも1年間は固定するつもりで決める必要がある。だからこそ、「今欲しい金額」ではなく「1年間動かさなくても破綻しない金額」を先に定めることが出発点になった。
判断材料にした3つの数字
自分の場合、月額を決める際に見た数字は次の3つだった。
- 本業(FDE)と複業4事業を合わせた、法人に紐づく年間の見込み売上: マイクロ法人には複業の一部を持たせている(この経緯は前回書いた)。本業は個人事業のまま残しているため、法人側の売上見込みは複業部分のみで見る必要があった
- 法人に残しておきたい運転資金・内部留保の水準: 複業はまだ立ち上がったばかりの事業も含まれる。設備投資や広告費など、法人側で使う予定の支出を先に確保した上で、残りをどこまで報酬に回せるかを考えた
- 家計側で最低限必要な手取り額: ここが一番大きい制約になった。子育て中で固定的な生活費がある以上、役員報酬の手取りが家計の下限を割り込む設定にはできない。個人事業(本業)からの収入と合わせて、家計全体で必要な額を先に見積もり、そこから法人報酬に求める額を逆算した
3つを並べると分かる通り、順序としては「法人が無理なく払える上限」と「家計が最低限必要とする下限」を両端で出し、その範囲に収まる金額を探すという作業になった。上限と下限の間に十分な幅があれば余裕を持って決められるが、自分の場合は事業がまだ育っている途中だったこともあり、範囲はかなり狭かった。
社会保険料の負担増を見落としかけた
金額を検討する過程で、最初に見落としかけたのが社会保険料の負担だ。役員報酬を設定すると、法人と個人でそれぞれ社会保険料の負担が発生する。個人事業だけをやっていた頃の国民健康保険・国民年金と比べて、報酬額によっては負担の絶対額が大きく変わる。
最初に「これくらいなら払える」と仮置きした金額をそのまま採用しかけたが、社会保険料の会社負担分を法人のキャッシュフローに乗せて再計算したところ、想定していたよりも法人側の負担が重くなることが分かった。ここで一度、仮置きの金額を下方修正している。金額を決める作業は、額面だけを見て終わりにはできない。額面に付随して発生する法人側のコスト、個人側の手取りの目減りの両方を、同じ表の上で見比べる必要があった。
実際にどう決めたか——手順の再現
自分が最終的に踏んだ手順は次の通りだった。
- 法人側の年間見込み売上から、必要な運転資金・投資予定額を差し引き、報酬に回せる上限額(年額)を出す
- 家計側で最低限必要な手取り額を積み上げ、下限額を出す
- 上限額を12で割った月額仮案に対し、社会保険料(法人負担・個人負担)を上乗せしてシミュレーションし、法人側のキャッシュフローが年間を通して赤字にならないか確認する
- 3で問題があれば月額仮案を下げて再計算、下限額を下回らないところで着地させる
この手順を踏んだ結果、着地したのが月23,000円という金額だった。金額そのものより、この「上限と下限の両端から挟み込み、社会保険料まで含めて再計算する」という手順を踏んだこと自体が、今振り返って一番良かった判断だと思っている。仮に額面の希望額だけで決めていたら、期の途中で資金繰りに苦しんだ可能性が高い。
まとめ
- 役員報酬は定期同額給与が原則で、期の途中で自由に増減できない。だから「今欲しい額」ではなく「1年間動かさなくても破綻しない額」から逆算する必要があった
- 判断材料にしたのは「法人の年間見込み売上」「法人に残す運転資金」「家計の最低限必要な手取り」の3つ
- 社会保険料の法人負担・個人負担を含めて再計算した結果、最初の仮置き額を下方修正した
- 実際の手順は「上限額の算出→下限額の算出→社会保険料込みでシミュレーション→着地額の調整」という4段階だった
次回は、役員報酬とは別に、法人に利益を残す判断(内部留保)と個人への還元のバランスをどう考えているかについて書く予定だ。