複業を4事業並行するところまで来て、よく聞かれるのが「パートナーの理解はどう得たのか」だ。結論から書くと、私は一度の説得で合意を取ったわけではない。時間・お金・リスクの3つを別々の話題として切り分け、それぞれについて「何を約束し、何を約束しないか」を先に決めてから話した。今回は、その具体的なやり方を書く。
目次
一括で説得しようとして失敗した最初の話し合い
最初にstoreforgeを始めようとしたとき、私は「新しい事業をやりたい」という一言から話を始めた。結果、話が全方向に広がって収拾がつかなくなった。時間が削られることへの不安、お金が減るかもしれないことへの不安、失敗したときにどうするのかという不安が、順不同で一気に出てくる。こちらも準備なく答えるので、その場しのぎの返答になり、後から「やっぱり聞いていた話と違う」という食い違いが起きた。
このとき学んだのは、パートナーの不安は「複業をやること」そのものへの反対ではなく、時間・お金・リスクという別々の軸への不安が合算されて出てきているということだ。合算されたまま話すと、こちらも防戦一方になる。そこで2事業目以降は、この3つを分けて、それぞれ先に自分の考えを整理してから話すようにした。
時間の合意形成:「増える時間」ではなく「削る時間」を先に示す
時間の話で一番失敗しやすいのは、「すきま時間でやるから家庭への影響はない」という説明の仕方だ。これは本人にとっては真実でも、パートナーからすれば「すきま時間」の定義がこちらと同じとは限らない。子が寝た後の1時間を私は「すきま時間」と呼んでいたが、パートナーにとってはその時間こそ夫婦の会話や家事の分担調整に使いたい時間だったりする。
そこで今は、「増える時間」を説明する前に、「どこから時間を削るか」を先に具体的に示すようにしている。
- 削る対象を先に言語化する(自分の趣味の時間、SNSを眺める時間など、複業に転用する時間の出どころを名指しする)
- 家事・育児の分担が変わらないことを、口約束ではなく実際のスケジュール表で示す
- 「うまくいかなかったら元に戻す」時間の上限をあらかじめ決めておく(私の場合は週あたりの複業時間に上限を設け、それを超えそうなら次回の話し合いのタイミングとする、という運用にしている)
「増える」ではなく「削る」を先に見せると、パートナーの不安の的が「家庭が犠牲になるかどうか」という具体的な問いに絞られ、話が進めやすくなった。
お金の合意形成:上振れではなく下振れの合意を取る
お金の話で私が最初に失敗したのは、期待値の話ばかりしていたことだ。「うまくいけばこれくらいの収益になる」という話は、パートナーからすれば「うまくいかなかったらどうなるのか」の裏返しでしかなく、上振れの話をするほど不安が増すこともあった。
今は逆に、下振れの合意を先に取るようにしている。具体的には、事業ごとに投資の上限額を家計とは別枠で決め、その金額を超えて追加投資しない、という約束を先にする。storeforgeを始めた際も、上限額を5万円と決め、それを超える場合は必ず事前に相談するというルールにした。上限を先に決めておくことで、実際の収支がどう転んでも「約束の範囲内かどうか」という単純な基準で会話できる。
役員報酬や事業ごとの実際の数字はここでは書けないが(マイクロ法人の運営実務は別の柱の記事に譲る)、複業の話し合いで大事なのは金額の大小そのものより、「上限をあらかじめ決め、それを守っているかどうかで信頼を測れる状態を作ること」だと感じている。
リスクの合意形成:「撤退基準」を先に決めて共有する
リスクの話で一番効いたのは、始める前に撤退基準を明確にしたことだった。「いつまでにどうなっていなければやめる」を数値と期限で決め、それをパートナーにも共有する。
私の場合、新しい事業を始めるときは次のようなことを事前に決めるようにしている。
- 検証期間: いつまでに一次的な判断をするか(例: 3ヶ月)
- 継続の判断基準: 何が起きていれば続け、何が起きていなければやめるか(数字だけでなく、自分の時間の使い方が家庭に無理を強いていないかも基準に含める)
- 撤退時の実行手順: やめると決めたときに何を止め、何を清算するか
これを事前に決めておくと、パートナーからの「いつまでやるつもりなのか」という質問に対して、期限のない精神論ではなく、期日と基準で答えられる。撤退基準があること自体が、「見切りをつけられない人ではない」という信頼につながっていると感じている。
一度の合意ではなく、定期的な見直しにする
もう1つ重要なのは、合意を一度きりのものにしないことだ。事業を始める前の話し合いだけで終わらせず、月に一度程度、時間・お金・リスクの3点を振り返る場を作っている。
始める前に決めたことが実態とズレてくるのは当然で、そのズレを都度話し合わずに放置すると、パートナーの不安が「言っていたことと違う」という不信感に変わってしまう。逆に定期的に見直していれば、「約束が変わる」ことそのものは問題にならない。約束を更新するプロセスがあるかどうかが重要だ。
まとめ
- 時間・お金・リスクを一括で話さず、別々の話題として切り分けて話す
- 時間は「増える時間」ではなく「どこから削るか」を先に具体的に示す
- お金は上振れの期待値ではなく、投資上限という下振れの合意を先に取る
- リスクは検証期間・継続基準・撤退手順を事前に数値と期限で決めておく
次回は、複数事業を並行する中で家庭内の役割分担がどう変化してきたかを書く。