マイクロ法人運用とFIRE、2つの柱にまたがるテーマを今回は書く。「マイクロ法人を作るとFIREが早まる」という話を見かけることがあるが、私の場合は結論から言うと「早まる部分もあれば、むしろ足を引っ張る部分もある」というのが実感だ。今回は、Nogawa L.prince合同会社の役員報酬・社会保険・税務の設計を、実際に自分がどう決めたかという実践記録として書く。一般化した助言ではなく、あくまで自分のケースの記録であることを先に断っておく。

目次

役員報酬をいくらに設定したか、その判断プロセス

法人設立時に最初に決めなければならなかったのが役員報酬の月額だ。私の場合、月23,000円で設定した。この数字を決める際に使った判断材料は3つある。

1つ目は、法人に残す利益と個人に渡す報酬のバランスだ。役員報酬を上げれば個人の手取りは増えるが、法人側の利益が薄くなり、法人税を圧縮する意味が薄れる。逆に役員報酬を下げすぎると、個人の生活費(複業4事業の立ち上げ資金を含む)を賄えなくなる。

2つ目は、社会保険料の負担ラインだ。役員報酬には厚生年金・健康保険の会社負担分が発生する。これは個人事業主時代の国民健康保険・国民年金と比べて、保障内容は手厚くなる一方で、報酬額に応じて負担額も上がる。この保険料の負担率がどのラインで跳ねるかを、実際に加入している協会けんぽの保険料額表で確認した上で報酬額を決めた。

3つ目は、役員報酬は原則期首から期末まで金額を変更できない(定期同額給与)という制約だ。会社設立1年目は本業FDEの売上見込みが読み切れていない部分もあったため、保守的な金額からスタートし、翌期以降に見直すという方針にした。この「一度決めたら1年動かせない」という制約は、個人事業主として自由に自分への支払いを調整していた感覚とは大きく違う点で、最初に法人化を検討した際に最も戸惑った部分でもある。

社会保険料は「増えた」——ただし保障内容も変わった

社会保険料の負担については、正直に書くと個人事業主時代の国民健康保険・国民年金と比べて、月々の支出は増えた。具体的には、法人負担分と個人負担分を合わせた社会保険料の総額は月22,000円前後で、個人事業主時代の国民健康保険(所得300万円あった年で年間13万円前後、月換算だと1万円強)と比較すると、差額は月1万円ほど増加している計算になる。

一方で、この増加分を「純粋なコスト増」とだけ捉えるのは正確ではないと考えている。厚生年金は将来受け取る年金額に反映されるため、支払った分がそのまま消えるわけではない。また、健康保険についても傷病手当金など、国民健康保険にはない保障が付く。

FIREの文脈でこの社会保険料をどう位置づけるかは、まだ自分の中で完全に結論が出ていない。「支出が増えた」という短期の事実と、「将来の受給権が積み上がっている」という長期の事実を、同じ表の中でどう扱うか。今の家計管理では、社会保険料は生活費側の支出として計上しつつ、将来の年金受給見込みは資産形成の進捗を記録する別の記事で扱う、という整理にしている。

税務設計で意識していること(実践記録であり助言ではない)

税務面で自分が実際に行っている設計は、大きく2つある。

1つ目は、法人に残す利益と役員報酬の配分を、法人税率と所得税・住民税の税率カーブを見比べながら決めるという発想だ。個人の所得税は累進課税なので、役員報酬を上げすぎると税率が上がる。一方、法人税は一定の利益までは軽減税率が適用される。この2つのカーブがどこで交差するかを、顧問税理士と相談しながら自分の事業規模に当てはめて考えている。ここは金額次第で最適な配分が変わるため、あくまで自分の現在の売上規模での判断であり、他の人にそのまま当てはまる話ではない。

2つ目は、法人に残した利益をどう扱うかだ。複業4事業のうち法人に紐づけている事業(民泊など)の運転資金として法人内に留保する部分と、将来的に個人へ配当や退職金という形で移す部分を、今の時点でどう設計するかを検討している。ここはまだ実行段階に入っていない検討中の項目であり、今後の記事で進捗を書く予定だ。

この税務設計の部分は特に、私個人の事業規模・事業構成・居住地の制度に強く依存する話であり、一般化できる要素がほとんどない。読者に伝えたいのは「こう節税すべき」という手法ではなく、「役員報酬・法人利益・将来の移転手段という3つの軸で考える」という整理の仕方そのものだ。

FIREへの効果は「プラマイゼロ」に近い、というのが今の実感

タイトルの問いである「マイクロ法人はFIREにどう効くか」に戻ると、今の時点での私の実感は「短期的な資産形成速度は、社会保険料の増加分だけ目減りしている」というものだ。役員報酬の設計や法人税の軽減効果を加味しても、個人事業主のまま複業だけを積み上げていた場合と比べて、手元に残る現金の額は必ずしも増えていない。

ではなぜマイクロ法人を続けているかというと、「なぜ個人事業だけで続けずマイクロ法人を作ったのか」で書いた通り、法人化の動機は元々売上最大化や節税ではなく、事業構造を切り分けたいというニーズだったからだ。FIREという資産形成のゴールに対しては、マイクロ法人は短期的なブースターにはなっていないが、複業事業を第三者と契約できる形で運営できるという土台を作っている点で、長期的な事業の継続性には寄与していると考えている。

数字で見える範囲(役員報酬・社会保険料・法人税)だけを切り取ると「マイクロ法人はFIREを遅らせている」とも言えてしまうのが、今回書いていて一番の発見だった。この評価は今後、法人の利益がどこまで積み上がるかによって変わってくるはずなので、定期的に数字を更新して記録していきたい。

まとめ

  • 役員報酬は「法人と個人の利益配分」「社会保険料の負担ライン」「定期同額給与の制約」の3点から月23,000円に設定した
  • 社会保険料は個人事業主時代より月1万円ほど増加したが、厚生年金の将来受給分や傷病手当金などの保障増加も同時に発生している
  • 税務設計は「役員報酬と法人利益の配分」「法人内利益の将来的な移転手段」の2軸で検討中で、まだ実行段階に入っていない項目もある
  • 現時点での実感は、マイクロ法人がFIREを短期的に加速させているわけではなく、社会保険料の増加分だけ資産形成速度は目減りしている

次回は、複業4事業のうちどれを法人に紐づけ、どれを個人事業に残しているか、その線引きの実務について書く予定だ。

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