副業を始めた初年度や、新しい事業の立ち上げ期には、パソコンなどの機材購入やツールの導入費用がかさみ、**「売上よりも経費のほうが多くて赤字になった」**というケースがよくあります。

このとき多くの人が抱く疑問が、**「副業が赤字の場合、確定申告は必要なのか?」「赤字を申告すると税金が戻ってくるのか?」**という点です。

結論から言うと、副業が赤字の場合は追加の税金を納める義務がないため確定申告をしなくても脱税にはなりません。しかし、「副業の所得区分(事業所得か雑所得か)」や「会社に副業を知られてよいかどうか」によって、確定申告をすべきかどうかの判断は180度変わります。

私自身、会社員として受託開発や個人事業の副業を行い、初年度の投資や経費計上、その後の黒字化とマイクロ法人設立まで、自力で確定申告を経験してきました。その中で、「赤字だからこそ知っておかないと大損するルール」と「赤字申告が引き金になる会社バレのリスク」を痛感しました。

この記事では、国税庁の公的基準(タックスアンサーNo.2250、No.2070)に基づき、副業赤字の税務上の扱い、事業所得と雑所得の損益通算の違い、住民税から会社に副業が知られるメカニズム、そして赤字を翌年以降に繰り越す青色申告の実務をわかりやすく解説します。


この記事の結論(先に3点)

  1. 雑所得の赤字は給与と相殺できない(切り捨て)が、事業所得の赤字なら本業の給与と「損益通算」して税金の還付を受けられる: 国税庁の規定により、損益通算ができる所得は事業所得などに限定されており、雑所得の損失は他の所得から控除できません
  2. 赤字を損益通算すると本業の住民税が下がり、会社に副業が確実に知られる: 本業の給与所得が圧縮されて住民税額が減少するため、会社の給与担当者に届く税額決定通知書で「なぜか住民税が安くなっている」と不審に思われる最大の原因になります
  3. 青色申告なら、給与と通算しきれなかった赤字を「翌年以後3年間」繰り越せる: 開業初年度の設備投資などで大きな赤字が出ても、青色申告であれば翌年以降の黒字と相殺して将来の税負担を大幅に軽減できます

この記事が合う人・合わない人

  • 合う人:
    • 副業(業務委託、受託開発、コンテンツ販売、物販など)で経費が売上を上回り、年間収支が赤字になった会社員
    • 副業の赤字を本業の給料と合算して、源泉徴収された所得税の還付を受けたいと考えている人
    • 赤字を確定申告したときに、本業の会社に副業がバレないか不安な人
  • 合わない人:

大前提:「赤字なら申告しなくていい」の誤解と真実

「副業の所得が20万円以下なら確定申告不要だから、赤字(マイナス)なら当然申告しなくていい」と考える人は多いです。

この考え方は、「税務署に対する義務」という観点では正しいです。所得税は黒字の利益に対して課税されるため、所得がゼロまたはマイナスであれば納税義務は発生せず、申告しなかったとしてもペナルティ(無申告加算税や延滞税)を受けることはありません。

しかし、「確定申告の権利(メリット)」という観点では大間違いです。

副業が赤字の場合、確定申告をすることで次の2つの強力な税務上の恩恵を受けられる可能性があります。

  1. 損益通算による所得税の還付: 本業の会社で天引きされた所得税の一部が口座に振り込まれて戻ってくる
  2. 純損失の繰越控除: 赤字を翌年以降3年間にわたって保存し、将来の黒字にかかる税金を減らせる

つまり、「赤字だから何もしない」と放置することは、本来戻ってくるはずだった税金や、将来の節税チャンスをそのまま捨てていることと同義になり得ます。

ただし、このメリットを受けられるかどうかは、あなたの副業が「事業所得」か「雑所得」かによって決定的に分かれます。


【最重要】「事業所得」と「雑所得」で赤字の扱いが180度違う

副業の赤字を語る上で、最も重要なのが所得区分の壁です。

国税庁のタックスアンサー「No.2250 損益通算」では、赤字を他の所得と相殺できる範囲を明確に定めています。

所得の金額の計算上損失が生じた場合に、損益通算の対象となる所得は次の所得です。 (1)不動産所得 (2)事業所得 (3)譲渡所得 (4)山林所得 (注2)配当所得、給与所得、一時所得および雑所得の金額の計算上損失が生じることはありますが、その損失の金額は他の各種所得の金額から控除することはできません。

出典:国税庁 タックスアンサー「No.2250 損益通算」(令和8年4月1日現在法令等)

項目 事業所得の赤字 雑所得の赤字
本業給与との相殺(損益通算) ○ 可能(給与の税金が還付される) × 不可(他の所得からは引けない)
翌年以降への赤字繰越 ○ 可能(青色申告で最長3年間) × 不可(その年の赤字は消滅)
他の雑所得との相殺 該当なし ○ 可能(雑所得同士の内部通算のみ可)
税務署への事前届出 開業届・青色承認申請書が必要 不要

雑所得の赤字は「切り捨て」になる

もしあなたの副業が「雑所得」に区分される場合、どれだけ多額の経費を使って赤字を出しても、本業の給与所得と相殺して税金を安くすることは一切できません。その年の赤字は単に「ゼロ」として処理され、翌年に繰り越すこともできずに切り捨てられます。

例外として、複数の雑所得がある場合(例: アフィリエイトで30万円の赤字、別の原稿料で50万円の黒字)は、雑所得のグループ内部でのみ相殺(内部通算)して、雑所得の合計を20万円とすることは可能です。しかし、雑所得の合計がマイナスになった場合、そのマイナス分を本業の給料から引くことは法律上禁止されています。

事業所得なら給与と相殺して税金が戻ってくる

一方、副業が「事業所得」として認められる場合、副業の赤字を本業の給料から差し引く(損益通算する)ことができます。

例えば、次のようなケースです:

  • 本業の給与所得:500万円(所得税・住民税が天引き済み)
  • 副業の事業所得:マイナス100万円(赤字)

この2つを確定申告で損益通算すると、年間の総所得金額は「500万円 − 100万円 = 400万円」に再計算されます。

会社では500万円の給与所得を前提に所得税が源泉徴収されていたため、差額の100万円分にかかっていた所得税(所得税率10%なら約10万円)が、確定申告後にあなたの銀行口座へ還付金として振り込まれます。

注意:国税庁による「副業節税」の取り締まり

「それなら何でも事業所得にして生活費を経費にし、給与の税金を還付させれば得ではないか」と考える人が後を絶ちませんでしたが、国税庁は令和4年に通達を改正し、このいわゆる「副業節税」を厳しく制限しています。

現在では、次のような基準が明確化されています:

  • 帳簿書類の保存がない場合: 原則として「雑所得」。ただし、収入金額が300万円を超え、かつ事業所得と認められる事実がある場合は除かれる(所得税基本通達35-2の(注))
  • 帳簿書類の保存がある場合: 事業所得に区分される場合が多い。ただし、収入金額が僅少な場合(例:例年300万円以下で主たる収入に対する割合が10%未満)や、例年赤字で赤字を解消する取組をしていない場合などは、事業と認められるかを個別に判断する(国税庁の通達改正の解説)

(出典:国税庁「所得税基本通達35-2の改正の趣旨説明」令和4年10月7日)

副業を事業所得として損益通算するには、請求書や領収書を整理し、正規の帳簿を作成・保存している実態が不可欠です。


副業の赤字を申告すると「会社にバレる」メカニズム

「事業所得として損益通算すれば税金が戻ってくるなら、絶対に確定申告すべきだ」と考える会社員が直面する最大の罠が、本業の会社への副業バレです。

なぜ黒字なら隠せて、赤字だとバレるのか?

副業が黒字の場合、確定申告書第二表の「住民税に関する事項」で**「自分で納付(普通徴収)」**にチェックを入れれば、副業分の住民税納付書が自宅に届き、本業の給料天引きには一切影響を与えずに切り分けることができます(詳細は「副業の住民税を普通徴収(自分で納付)にする方法、確定申告書第二表の書き方と会社にバレないための注意点」を参照)。

しかし、副業が赤字で損益通算を行った場合、普通徴収で切り分けることは構造上不可能です。

理由は極めて単純で、**「本業の給料から天引きされる住民税そのものが安くなってしまうから」**です。

【副業が黒字で普通徴収の場合】
本業の住民税(給料天引き) :本来の金額のまま変化なし(会社に気づかれない)
副業の住民税(自宅へ納付書):自宅で自分で支払う

【副業が赤字で損益通算した場合】
本業の住民税(給料天引き) :副業の赤字分だけ税額がガクッと減額される!

会社の給与担当者にはどう見えるか

毎年5月〜6月になると、自治体から勤務先の会社宛てに、全社員分の「給与所得等に係る市民税・県民税 特別徴収税額の決定通知書」が送られてきます。

給与担当者は全社員の住民税天引き額をシステムに入力してチェックしますが、副業の赤字を損益通算した社員の通知書には、次のような異常が現れます:

  1. 給与収入に対して住民税額が不自然に少ない: 同じ役職・同じ基本給の同僚と比べて、明らかに税額が低い
  2. 「その他の所得控除」や「総所得金額」が給与額と合わない: 住宅ローン控除やふるさと納税をしていないのに、総所得金額が会社の給与額より大幅に小さくなっている

給与担当者は「なぜこの社員の住民税額がこんなに低いのか? 自治体の計算ミスか?」と疑問に思い、通知書の内訳を確認したり自治体・本人へ確認を入れることになります。

結果として、「本業のほかに事業の赤字を申告して相殺していること」が会社に完全に知られてしまうのです。

副業禁止の会社に勤めている場合や、会社に副業を知られたくない会社員は、たとえ事業所得であっても、副業の赤字を本業の給与と損益通算してはいけません。


青色申告なら「純損失の繰越控除」で翌年以降の黒字と相殺する

「会社に知られたくないから損益通算はできない。でも、せっかくかかった初期投資の赤字をドブに捨てるのはもったいない」

このような場合に活用できるのが、青色申告の最大の武器の1つである**「純損失の繰越控除」**です。

3年間赤字をプールできる制度

国税庁のタックスアンサー「No.2070 青色申告制度」では、青色申告者の特権として次の制度を定めています。

事業所得などに損失(赤字)の金額がある場合で、損益通算の規定を適用してもなお控除しきれない部分の金額(純損失の金額)が生じたときには、その損失額を翌年以後3年間にわたって繰り越して、各年分の所得金額から控除します。

出典:国税庁 タックスアンサー「No.2070 青色申告制度」(令和8年4月1日現在法令等)

この制度を使えば、本業の給与とは損益通算を行わず、翌年以降の副業の黒字から過去の赤字を差し引くことができます。

赤字繰越の具体例

例えば、副業の立ち上げ期にWebサイト制作や開発機材の購入で大きな赤字が出たとします。

  • 1年目: 売上 30万円、経費 110万円 → マイナス80万円(赤字)
    • 確定申告で「純損失の繰越し」を行う(税金は0円)
  • 2年目: 副業が軌道に乗り、売上 150万円、経費 50万円 → プラス100万円(黒字)
    • 通常なら100万円に対して税金がかかる
    • 1年目の赤字80万円を繰り越して相殺:課税される所得は「100万 − 80万 = 20万円」だけ!

このように、赤字を出した年の損失をプールしておくことで、翌年以降に利益が出たときの税金を劇的に圧縮できます。

純損失の繰越控除を使うための必須条件

赤字の繰越控除を使うには、以下の3つの条件を満たす必要があります:

  1. 赤字を出した年に「青色申告承認申請書」を提出していること: 白色申告では、原則として純損失の繰越控除は認められません(被災事業用資産などの例外を除く)
  2. 赤字の年に、確定申告書第四表(損失申告用)を提出していること: 申告書Bに加えて「第四表(損失申告用)」を添付し、赤字の金額を正確に税務署へ届け出ます
  3. その後も毎年連続して確定申告書を提出すること: 繰り越している期間中は、たとえ取引や所得がない年であっても、毎年確定申告書を提出し続ける必要があります

個人向けのマネーフォワード クラウド確定申告や法人向けのマネーフォワード クラウド会計などのクラウド会計ソフトを使っていれば、決算書で赤字が発生した段階で第四表の申告書が自動生成され、翌年度への繰越残高も自動で引き継がれるため、計算ミスの心配がありません。


ケース別:副業が赤字のときの最適アクション判断表

副業で赤字が出たとき、あなたが取るべき行動をケース別に整理しました。

【診断チャート】
Q1. 会社に副業が知られても大丈夫ですか?
 ├─ はい  → Q2へ
 └─ いいえ → パターンA(申告しない、または給与と通算せず繰越)

Q2. 副業の所得区分はどちらですか?
 ├─ 雑所得  → パターンB(給与と相殺不可。他の雑所得がなければ申告不要)
 └─ 事業所得 → Q3へ

Q3. 青色申告の承認を受けていますか?
 ├─ はい(青色) → パターンC(損益通算で給与の税金還付+残りは3年繰越)
 └─ いいえ(白色) → パターンD(損益通算で給与の税金還付のみ)

パターンA:会社に絶対に副業を知られたくない場合

  • 推奨アクション: 副業の赤字を本業の給料と損益通算しない
  • 理由: 損益通算すると本業の住民税が下がり、会社の給与担当者に100%発覚するため。
  • 対処法: 青色申告の承認申請を出している場合は、本業の給与とは切り離して副業単独で赤字繰越の申告を行うか、副業の確定申告自体を見送る判断になります。

パターンB:副業が「雑所得」の場合

  • 推奨アクション: 他の雑所得で黒字がなければ、確定申告は不要
  • 理由: 法律上、雑所得の損失は給与所得と損益通算できず、赤字繰越もできないため、申告しても税制上のメリットがゼロです。
  • 例外: 別の雑所得(仮想通貨や原稿料など)で黒字がある場合のみ、それらと相殺(内部通算)するために申告します。

パターンC:会社公認・事業所得で「青色申告」の場合【最もお得】

  • 推奨アクション: 確定申告を行い、損益通算で税金還付を受け、残余を3年繰り越す
  • 理由: 本業の給与から引かれた所得税が即座に還付され、給与所得でも相殺しきれなかった赤字は翌年以降の副業黒字から差し引けるため、税制上のメリットを余すことなく享受できます。

パターンD:会社公認・事業所得で「白色申告」の場合

  • 推奨アクション: 確定申告を行い、損益通算で本業給与の税金還付を受ける
  • 理由: 白色申告でも事業所得の赤字であれば損益通算は可能です。ただし翌年以降への赤字繰越はできないため、その年の給与所得と相殺できる分だけがメリットになります。翌年以降に備えて、速やかに青色申告承認申請書を提出しておくことをおすすめします。

まとめ

「副業が赤字なら税金はかからないから放置でいい」という判断は、税制上の権利や会社バレのリスクを考慮していない危険な思い込みです。

  1. 雑所得の赤字は他所得と相殺できないが、事業所得なら給与と損益通算して還付を受けられる
  2. ただし損益通算すると本業の住民税が下がり、会社に副業が知られる最大のトリガーになる
  3. 会社に知られたくない場合や将来の黒字に備えるなら、青色申告による「純損失の3年間繰越」を活用する

副業の初期フェーズは、経費の先行投資で赤字になりやすい時期です。自分の所得区分と会社の就業環境を正しく見極め、損のない確定申告の選択肢を選んでください。


※本記事にはアフィリエイト広告(PR)を含みます。

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