FIREの進捗は総資産額で語られることが多いが、私はもう一つ、貯蓄率(手取り収入に対する貯蓄・投資に回した額の割合)を定点で見ている。今回はこの貯蓄率が、会社員時代とフリーランス・複業4事業を並行運営する今とでどう変わったかを比較する。先に結論を書くと、貯蓄率の数字自体は会社員時代の方が高かった。だが分子(貯蓄額)の中身の性質がまったく違うため、単純な数字の上下だけでは「今の方が悪化した」とは言えないというのが、実際に計算してみた上での実感だ。

なぜ今、過去と比較しようと思ったか

資産形成の進捗を毎月記録する仕組みは既に作っている。だが月次の増減額だけを見ていると、「今月は多く貯まった/貯まらなかった」という短期の波は分かっても、独立という意思決定そのものが資産形成のペースにどう影響したかは見えてこない。

会社員を辞めてフリーランスになった判断は、収入の変動リスクを引き受ける代わりに、時間の裁量と収入の伸びしろを取りに行く選択だった。この選択が実際に資産形成の面でどう機能しているかを検証するには、月次の推移ではなく「会社員時代」対「独立後」という区切りで貯蓄率を出し直す必要があると考えた。

貯蓄率の計算方法をまず揃えた

会社員時代と今とでは、収入の構造が根本的に違う。会社員時代は毎月ほぼ固定額の給与のみだったが、今は本業(FDE、フリーランスの業務委託収入)に複業4事業の収入が不定期に加わり、さらにマイクロ法人の役員報酬という形も入ってくる。この違いを無視して単純に「貯蓄額÷収入額」を比べると、比較として成立しない。

そこで、次の3点を先に固定してから計算した。

  1. 分母は「手取りの世帯収入合計」: 会社員時代は給与の手取り額、独立後は本業収入+複業収入+役員報酬(マイクロ法人からの分)を合算した手取り相当額。税・社会保険料の引かれ方が会社員時代と今とで大きく異なるため、ここは概算にならざるを得ない
  2. 分子は「貯蓄・投資に回った額」のみ: 生活防衛資金の積み増しと証券口座への入金を対象とし、複業事業への再投資(機材購入や広告費など)は分子に含めない。これは事業投資であって個人の資産形成とは別物だと判断したため
  3. 比較期間は年単位: 独立直後は収入が不安定な月が続いたため、月次比較だとノイズが大きすぎる。会社員最終年度と独立後直近1年を、それぞれ年単位で比較することにした

出てきた数字と、その解釈

計算の結果、会社員時代の貯蓄率は35%、独立後直近1年の貯蓄率は20%だった。数字だけ見れば独立後の方が下がっている。

この結果自体は予想通りだった。理由は明確で、独立直後は税理士報酬・法人設立費用・複業4事業それぞれの初期投資など、会社員時代には存在しなかった支出項目が一気に増えたためだ。加えて、会社員時代は給与から天引きで貯蓄・投資が自動的に進む仕組み(財形貯蓄や企業型DCなど)があったのに対し、独立後は収入が入るたびに自分の意思で貯蓄に回す判断を挟む必要がある。この「自動か、意思決定を挟むか」の違いが、貯蓄率の差にそのまま表れていると見ている。

ただし、この数字だけを見て「独立は資産形成にマイナスだった」と結論づけるのは早計だと考えている。理由は3つある。

  • 分母(収入総額)自体が増えている: 貯蓄率は下がったが、収入の絶対額は会社員時代より増えている。率は下がっても、貯蓄額の絶対値は会社員時代と同水準かそれ以上を維持できている
  • 複業事業への再投資は分子から除外している: 前述の通り、複業4事業への再投資額は「貯蓄」としてカウントしていない。だがこれらは将来の準不労所得を生む種銭でもあり、広い意味では資産形成の一部だと言える。狭い意味の貯蓄率だけで評価すると、この部分の資産形成が見えなくなる
  • 独立直後という特殊要因が大きい: 法人設立費用のような一時的な支出が独立後1年目に集中している。来年以降、この一時費用が剥落すれば貯蓄率は自然に戻る余地がある

会社員時代と今、それぞれの貯蓄率の「質」の違い

数字の上下より重要だと感じているのは、貯蓄率の「質」が変わったことだ。会社員時代の貯蓄率は、給与という上限が決まった収入の中で、支出を切り詰めることでしか上げられなかった。天井が固定されている以上、貯蓄率を上げる手段は「使わない」以外になかった。

一方、今の貯蓄率は下がってはいるが、上げる手段が「支出を削る」だけでなく「複業収入を増やす」という選択肢も加わっている。実際、FIRE目標額の逆算でも書いた通り、私は支出削減よりも複業4事業からの準不労所得を育てる方に時間を配分する判断をしている。貯蓄率という同じ指標でも、会社員時代は「守りの指標」、今は「攻めと守りの両方が反映される指標」という位置づけの違いがある。

この違いに気づいてから、貯蓄率の数字を見るときの受け止め方が変わった。単月・単年の率の高低で一喜一憂するのではなく、「収入の天井が固定された状態での率」と「収入の天井が動く状態での率」を分けて評価する必要がある、という整理に落ち着いている。

まとめ

  • 貯蓄率を比較するには、会社員時代と独立後で異なる収入構造をまず揃える必要があり、分母(手取り世帯収入)・分子(貯蓄・投資額のみ、事業再投資は除外)・比較期間(年単位)の3点を固定してから計算した
  • 独立後の貯蓄率は会社員時代より下がったが、独立直後特有の一時費用と自動天引きの仕組みがなくなったことが主因で、収入の絶対額・貯蓄額の絶対値は増えている
  • 複業事業への再投資は狭義の貯蓄率には含めていないが、将来の準不労所得を生む種銭という意味では広義の資産形成の一部だと捉えている
  • 会社員時代の貯蓄率は「支出を削る」しか上げる手段のない守りの指標だったが、今は「複業収入を増やす」という攻めの手段も加わった、質の違う指標として見ている

次回は、この貯蓄率の推移を踏まえて、複業4事業のうちどの事業が実際に貯蓄率の改善に貢献し始めているかを記録する。

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