副業で開業届を出すか迷うとき、調べると「青色申告で65万円控除」「屋号で口座が作れる」といった利点ばかりが出てくる。私も開業届を出す前、その順番で調べていた。

ただし開業届には、出したあとで気づくと取り返しがつかない性質のデメリットがある。特に失業保険と扶養の2つは、金額が大きいわりに事前の情報が少ない。

この記事では、開業届を実際に出した立場から、出す前に確認しておくべきだったことを書く。制度の詳細は年度や自治体で変わるため、最終的な判断は一次情報で確認してほしい。

開業届を出すと失業保険が受け取れなくなる場合がある

いちばん影響が大きいのがこれだ。

失業保険(雇用保険の基本手当)は「失業している状態」に対して支払われる。厚生労働省の定義では、働く意思と能力があるのに職業に就けない状態を指す。

開業届を出すということは、事業を開始したと税務署に届け出ることにあたる。そのため、会社を辞めたあとに失業保険を受け取ろうとしても、すでに事業者であるとみなされて支給の対象外になる場合がある。

ここで誤解しやすいのは、収入がゼロでも関係があるという点だ。開業届は収入の有無ではなく、事業を始めたという事実に対して出すものなので、売上が立っていなくても「事業を開始している」と判断されうる。

会社員を続けながら副業をする分には、失業保険の受給自体が発生しないので影響はない。問題になるのは、将来的に退職する可能性があるときだ。私は在職中に開業届を出したが、このリスクを理解したのは出したあとだった。

なお、事業を開始した人向けには「再就職手当」という別の制度がある。ただし受給には待期期間の経過など複数の条件があり、失業保険の代わりに必ず受け取れるものではない。

扶養から外れる条件は制度ごとに違う

扶養には税法上の扶養と社会保険上の扶養の2つがあり、条件が別々になっている。ここを1つのものとして考えると判断を誤る。

税法上の扶養は、年間の合計所得金額で決まる。配偶者控除・扶養控除には所得の上限があり、副業の所得がこれを超えると控除の対象から外れる。

社会保険上の扶養は、運営している健康保険組合によって基準が違う。年間収入の目安が定められているほか、組合によっては「開業届を出している時点で扶養に入れない」という運用をしているところがある。

つまり、所得が基準内であっても、開業届の有無だけで扶養から外れる可能性がある。この場合は国民健康保険と国民年金を自分で払うことになり、負担が一気に増える。

配偶者の扶養に入っている状態で副業を始めるなら、開業届を出す前に、加入している健康保険組合の規約を確認するのが確実だ。「健康保険組合 扶養 個人事業主」で検索すると、組合ごとの案内ページが出てくる。

帳簿と申告の手間が増える

これは金銭的な損失ではないが、継続的にかかるコストとして見ておきたい。

開業届と青色申告承認申請書をセットで出すと、青色申告の対象になる。控除額は大きいが、複式簿記での記帳が要件になる。白色申告の簡易な記帳とは求められる水準が違う。

会計ソフトを使えば仕訳の大半は自動化できるが、それでも月次で取引を確認する時間は必要になる。私は月末にまとめて処理する運用にしているが、溜めると年度末に苦労する(副業の収支管理はスプレッドシートと会計ソフトでに実際の運用を書いた)。

また、事業を続ける限り赤字でも申告が必要になる。副業をやめた場合は廃業届を出す手続きも発生する。

それでも私が開業届を出した理由

デメリットを並べたうえで、私は開業届を出している。判断の材料は3つだった。

1つ目は、退職の予定がなかったこと。失業保険のリスクは、受給する場面が来て初めて問題になる。在職を続ける前提なら影響しない。

2つ目は、扶養に入っていなかったこと。私は自分で社会保険に加入しているので、扶養の条件を考える必要がなかった。

3つ目は、青色申告の控除が記帳の手間に見合ったこと。副業の所得がある程度の規模になると、控除額が会計ソフトの利用料と作業時間を上回る。逆に所得が小さいうちは、手間のほうが勝つ可能性がある。

この3つは人によって答えが変わる。「開業届は出したほうがいい」という一般論では判断できないのが、この論点の難しいところだ。

判断の順番

私が今から始める人に伝えるとしたら、この順番で確認する。

  1. 近い将来に退職する可能性があるか → あるなら失業保険への影響を先に調べる
  2. 扶養に入っているか → 入っているなら健康保険組合の規約を確認する
  3. 副業の所得がどのくらいになるか → 小さいうちは白色申告でも足りる

1と2に該当しないなら、開業届のデメリットは実質的に「記帳の手間」だけになる。その場合は出す判断がしやすい。

私は3つとも確認してから出したわけではなく、結果的に問題にならなかったというのが正直なところだ。出す前に知っていれば、もう少し落ち着いて判断できた。

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